雪山でも、低山でも、寒い季節に山に登るときには、必ずこのウールのシャツを着る。
また、冬の松本の町など、とにかく寒い場所へ行くときも、あれこれ考えず着て出かける。
購入してかれこれ30シーズン以上経つが、いまだ現役。ウールならではの信頼感があって、簡単には手放せない。
「吸湿+保温+撥水」ウールを着る所以
濡れても暖か
登山をするうえでありがたいのが、ウールは汗を吸うばかりでなく、吸った汗を出してくれること。ウールは呼吸するのだ。
汗が蒸発するときは体の熱も奪わてしまうのだが、ウールは自身が含んだ湿気を穏やかに蒸発させるので、汗で濡れても暖かさが失われることがない。この働きは、低体温症を防ぐ意味でも助かる。
以前、秋の北アルプスに登ったとき、シャツが汗でしとどに濡れてしまったが、冷え感がなかった。さすがウール。スゲーって思いましたね。
ウールは、生地が汗を吸っても体が冷えない。冬の山で汗をかいても暖かいのだ。
保温力がよろし
ウールが保温力に優れることは以前から知っていた。羊特有の縮れた毛と毛の間に空気が蓄えるからだと思っていたが、実はそれだけでなく、湿気を含むと繊維が発熱して、その熱量が他の繊維を圧倒していることも要因なのだそうだ。
山小屋などでは、目が覚めたらすぐにこのシャツを羽織る。キンと冷える朝でもボタンを留めるや体が温まる。まさに“速暖”である。
ウールは水を弾く
霧や霧雨の中にいたり、雪にまみれたりしても、生地は水滴を弾く。払うとそれがパラパラと落ちる。ウールは撥水性も持ち合わせているのだ。
静電気が起きにくいから、着替えの時のあの不快なパチパチがないというのも高得点。
ケミカル素材も悪くないけれど
ケミカル素材の特色
一方、ポリエステルなどのケミカル素材はとてもスマートだ。
素材そのものが水分を吸わず含まないので、汗を繊維に伝わせてどんどん衣服の外に出してゆく。だから、肌はさらっとして、体温低下を招かず安心、しかも軽い。なんとも合理的だ。
ウールとケミカル素材の違い
ケミカル素材は汗を吸わずに出して、体を「冷やさない」。対してウールは汗を吸って、体を冷やさないだけでなく「暖める」。
ケミカル素材の中には吸湿して発熱するものもあるが、ウールは繊維中に多くの空気を含むから身に着けるだけで暖かい。さらに撥水性の有無。そして静電気……。
「吸って含んだ水分を蒸発させながら保温する」とか「吸湿しながら撥水する」という作用は矛盾した働きだが、こうした性質を天賦自然に持っている天然素材を身に纏うことに、私は幸せを感じてしまうのであり、信頼感を覚えてしまうのだ。
ケミカル素材には、軽いかさばらないという利点があるにせよ、ウールには、その機能の豊かさ、奥深さを感じないわけにはいかない。
シャツのディティールのチェックポイント
ロングテールであること
ロングテール(裾が長い)は、アウトドア用シャツのお約束。寒さや湿気から体を守るための仕様なのだ。だから、パンツの中にインして着ることが前提だ。
フラップには意味がある
胸ポケットにはボタン付きのフラップ(蓋)が付いていることが大切。
フラップがあると、かがんだとき、ポケットの中のものが谷底に転がり落ちてゆく……ということがない。小さなことだが、余計なストレスを感じずに済むし、安全面でもメリットがあるのだ。
シャツの胸の左右にポケットが付いていることには意味があるのだよという、先哲の教えをひとつ。
それは、左にライターなど金属製の物(つまり硬いもの)を入れて心臓をガードしろというもの。(雷が近づいてきたら、金属製なら右に入れ直して心臓を直撃されるのを避けろとな)
このシャツにも左右に胸ポケットがあるが、行動食の飴玉を入れていたら気温と体温とで溶けてしまい、ベタベタネトネトが毛に絡んで大変なことになってしまったことがある……。
快適さを担保するライニング
とにかく好都合なのが、袖の裏のライニング。ナイロンならば、沢で水を汲むときや手や顔を洗うときに袖口を濡らしてしまってもさして気にならない。
ライニングは襟の裏にも施されていれば肌触りが滑らかだ。
ウールは女性に向く?
体が冷えやすかったり、寒がりの女性にウールは最適だと思う。防臭・抗菌効果も備えているし。
また、今のウール製品は家の洗濯機で洗えるものがほとんど。メンテも楽なのだ。
山の中という、寒暖差や天候の急な移り変わりがある環境で着ると、ウールはとても頼もしく感じられるはず。ウールを着ることは天然の力を纏うこと。山を歩いていてちょっと誇らしい気分なれる。
ロングテールと予備のボタン
このシャツは尻までしっかり隠してしまうロングテール仕立て。前立ての下には、カフボタンを含めた予備のボタンが付属。
快適さを生み出すナイロンのライニング
袖口と襟の裏だけでなく、胸のポケットの裏にもナイロンのライニングが。微に入り細を穿つというか、痒い所に手が届くつくり。
ノース・フェイスも以前は良いものをつくっていた
長い間ザックを背負い続けても肩のあたりがフエルト化しない、毛玉ができない。縮まない。ほつれない。ノース・フェイスも以前はこういう丁寧な作りのものを世に出していたのだ。