霧ヶ峰を歩くなら、6月の下旬から7月上旬にかけてがよい。
梅雨の真っ只中だけど。
週刊天気予報で曇りや雨のマークがずらり並んでいるのを見ると気持ちがどんよりするが、それでも、いわゆる“はっきりしない天気”の日こそ、霧ヶ峰を歩いてみることをおすすめする。
霧とも雲ともつかぬ乳白色のガスが高原を包み込んでいる。
人がいない。これはよい。
展望が利かない。これはよくない。
それでも歩き続けると、カーテンを引くようにサーとガスが切れて、神様が応えてくれる瞬間がある。
草原の緑、レンゲツツジの赤、コバイケイソウの白……なんと柔らかな点描画だろう。
目の前に広がる、幻想的で、神秘的な仙境。
時折、射るような陽光が降り注ぐ。
見上げれば、天上も拭き払われ、スカッとした夏空が顔を覗かせている。
が、瞬く間にまたガスり、高原はまた乳白の世界に戻る。
この景色を目の当たりにするということ。この景色のただ中にいるということ。
これを僥倖と言わずして、なんという?
梅雨の時期の霧ヶ峰。
天国を独り占めである。